王永徳先生による二胡夏合宿レポート

 本年8月19日から22日にかけて、九州の熊本県と大分県に於いて、二胡演奏会・二胡講座夏合宿が行われました。講師には中国上海音楽学院より著名な二胡教育家である王永徳先生を招き、王先生は二日間の二胡講座夏合宿以外に19日・22日両日の演奏会にも参加しました。密な日程と内容の濃い4日間に渡る芸術的活動は、参加者に大変大きな成果をもたらしました。

 この催しは、「日本二胡振興会」と九州全域に教室を持つ「劉福君二胡教室」による共催で、九州はもとより、東京、大阪、長野、栃木などの各県から二胡愛好者が多数参加しました。初日、熊本市民会館で行われた「第4回九州劉福君二胡教室生徒たち二胡の夢コンサート」演奏会では、王永徳先生とおよそ100名の二胡愛好者の皆さん、東京から駆けつけた日本二胡振興会代表理事の武楽群先生、そして劉福君先生が一堂に会してステージに立ち、温かさに満ちた演奏会を観客に届けました。王先生はまた、全員合奏以外にも自身作曲の「歓騰的水郷」を独奏し、熱烈な拍手を博しました。
演奏会終了後、王先生と37名の合宿参加者は、大型バスで大分県九重町の温泉郷「湯壺亭」に向かいました。青々とした山河に囲まれたすばらしい景色が広がる中、二胡講座は19世紀イギリス風建築の小さいミュージック・ホールで開かれました。王先生は数十年に及ぶ教学経験から、二胡の歴史や発展、更に二胡演奏の基本技巧からいくつかの曲の特徴までを、一気に精確で簡単明瞭に解説されました。右手運弓と左手の構えの関係、”換把”など基本奏法の重要性と訓練方法の解説を除き、参加者全員一人一人に向き合い直接指導、それぞれの異なる問題に対し正確に指導・解決していきました。合宿の最後は、一人一人が舞台に上がり得意曲を披露、その演奏に対し王先生からは根気強く細やかな講評を頂きました。昼間だけでは時間が足りず夕食後も続きましたが、王先生は労力も厭わず指導に当たり、参加者皆大変得るものが有った、満足のいく合宿となりました。

 今回は、日本全国より中学生から80歳代の方まで職業も様々な方が参加しました。彼らには、年齢でも職業でもないただ1つの共通点「二胡を上手に弾きたい」という思いがあり、そこには二胡の学習を通じて、中国民族音楽への理解と中国への思いを深めたいという共通の願望があります。二日間の合宿情況より、参加者の中から独奏、重奏の奏者を選び、「九重町ふれあいの夕べ」と題した新境地を開く演奏会を、近くの別ホールにて催しました。オープニングの大合奏は、日本の曲より「川の流れのように」「地上の星」「琵琶湖周航の歌」、中国の曲より「良宵」「八月桂花遍地開」などを演奏しました。九州より参加の坂本明美さんと松尾茜さんの二重奏「牧羊姑娘」、東京から参加した14歳の中学生上條真央さんと熊本から参加した上條さんのおばあちゃんと同年齢くらいの専業主婦田中陽子さんの「江南春色」、この年齢差コンビは大変チームワークがとれていて拍手喝采を浴びました。鹿児島から参加した有島敦子さんは、4年前に不治の病にかかり死の宣告もされましたが、病魔と闘いながら二胡を練習してきました。演奏曲は「山村変了様」、60歳近くになって二胡を始め学習時間もわずか数年の彼女には難曲です。大変落ち着いて終始微笑みを絶やさず、二胡で再び得た健康や人生の喜びを打ち明けるように演奏しました。栃木から参加した心理臨床士の稲田美和子さんの演奏曲は、「豫北叙事曲」、演奏技術、音色もよく情感も豊かに弾き、観客を唸らせました。

 九州在住の劉福君先生は中国吉林省の出身で、九州を中心に19年間二胡の演奏と指導を続けてきました。現在劉先生の生徒達は九州全域に拡がりをみせるなど、彼の活動は日本での二胡の普及に功績を残しました。劉先生は、日本の名曲「宵待草」を演奏、観客に深い共感を呼び起こしました。 2005年に発足した約600名の会員を持つNPO法人日本二胡振興会の代表理事である武楽群先生は、わざわざこの日のために東京から駆けつけ、王先生の二日間に渡る講座の通訳を担当し、演奏会ではモンティ作曲の「チャルダッシュ」を演奏しました。最後、王先生が演奏した「光明行」で演奏会はクライマックスを迎えました。観客の熱烈な拍手に応え、王先生と参加者全員で、アンコール曲「賽馬」と日本の名曲「ふるさと」を弾き、演奏会は終了しました。観客の目を楽しませた離れがたい音楽会となりました。

 この演奏会は無料コンサートでしたが、観客自らの意志で今年の九州北部豪雨による大災害のため寄付を集め、生徒たち二胡の夢コンサートと合わせて11万4872円を日本赤十字社に全額寄付しました。

 王永徳先生の二胡夏合宿の催しはこのようにして成功裏に終わりました。 二胡講座と2回のコンサートだけではなく、王先生の順序立てて上手に教え導く教授経験、人を飽きさせずに教え導く根気良い指導、謙虚で慎み深い物腰と言葉、労苦を惜しまない高尚な品行は、日中民間友好交流のために誠実に貢献し、また日本での二胡の普及と二胡の水準を高めるために積極的な影響を及ぼしました。

レポート:文遅