日中国交正常化50周年記念「平和の祭典」
日中二胡名曲コンサートに参加して

 5月の爽やかな季節、今日の日を祝うかのように雲一つない快晴の5月7日、兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールにて日中国交正常化50周年記念「平和の祭典」日中二胡名曲コンサートが開催されました。
長引くコロナ禍にありますが、当日は会場の外までお客様の長蛇の列ができ少し早めの開場となりました。
客席は満員のお客様で埋め尽くされ、盛大にそして華やかにオープニングを迎えました。
ご来場いただきましたお客様に心より感謝申し上げます。

 オープニングは、NPO法人国際音楽協会副理事で国際民族楽団の張述洲先生の指揮で、「大海 ふるさと」の大合唱、大合奏から幕を開けました。中国映画「大海在呼喚」の主題歌と日本で知らない人は殆どいない国民の歌「ふるさと」の2曲をこのコンサートのために張述洲先生がアレンジされ、日本で活躍されている一流の民族楽器演奏家と二胡愛好者、地元兵庫県の合唱団と国際民族楽団の総勢420名で大合唱、大合奏されました。
舞台と1階客席、1階バルコニー席まで奏者が立ち並んだ風景は、これまでに例のないことだと思います。
約300名の二胡の音色と約100名の歌声が一体となり、重厚で温かく美しいハーモニーが会場いっぱいに響きたった瞬間、”ふるさとを想う気持ちは、皆変わりないのですよ”と語りかけられているようで感動で胸がいっぱいになりました。

 2曲目からは、関西を代表するオーケストラ「神戸アンサンブル」を主宰、プロフルート奏者の矢野正浩先生の指揮で、故郷へ感謝の気持ちを込めて書かれた劉福君先生作曲の「郷風」が演奏されました。
イントロのメロディーは、劉先生のプロデュースにより矢野先生のフルート一本で奏でられ、その音色は美しく温かく優しく心に響いてくる素晴らしい演奏でした。

 続いて「川の流れのように」が演奏され、オープニング最後の合奏曲「賽馬」では、劉先生が1階客席のお客様のすぐ前を歩きながら演奏され、そのパフォーマンスに会場は大変盛り上がりお客様から大きな拍手が湧きおこりました。このよう壮大な大合唱、大合奏に参加できたこと、そして想像を超えた感動を味わうことができ本当に幸せに思いました。

 大合奏の後は、ご来賓の中華人民共和国駐大阪総領事の薛剣様と公明党衆議院議員の赤羽一嘉様からご挨拶をいただき、いよいよ日本の第一線でご活躍の一流の民族楽器演奏家の皆様の演奏が始まりました。

 最初に演奏していただいた葉衛陽さんとさくらさん親子の琵琶二重奏「龍船」は、端午の節句に中国各地で開催されるドラゴンレースの賑やかな様子を琵琶の様々な技法を駆使して表現され、繊細でハイテンポなリズムも一糸乱れぬ息の合った演奏で本当に素晴らしい演奏でした。

 そして二胡独奏は、甘建民先生の「春江花月夜」で始まりました。揚琴奏者の沈兵さんの伴奏で、春の夜の川面に映る江南の美しい春の情景が自然と浮かんでくるような艶やかな演奏を披露してくださいました。

 続いて、李亜輝先生はヴァイオリンのための楽曲で、二胡での演奏は高度なテクニックが必要とされる「ホラ・スタッカート」を披露してくださり、軽やかな演奏に気持ちが明るくなり元気をいただきました。

 続いて、劉先生の愛娘でいらっしゃる美佳子さんがお父様の作品「春風楊柳」を滑らかに美しく生き生きと演奏してくださいました。中国では昔からの春のシンボルとされてきた「楊柳」。春風になびく新緑の楊柳と共に生き生きと成長していこうと、春を迎える喜びをメロディーに託した曲ですが、現在大学生でこれからのご活躍が益々楽しみな美佳子さんにぴったりの楽曲だと思いました。

 第一部最後は、劉福君先生ご自身の作品「草原情」を今回は二胡よりも一回り大きく低音の響きが美しい中胡で演奏してくださいました。
「草原情」は、中国民族管弦楽学会胡琴専業委員会が主催した「2015年金胡琴作曲作品コンクール」で優秀作品賞を獲得、2019年中国人民音楽出版社の「金胡琴賞受賞作品集」に出版された名曲です。
今回はモンゴルの雰囲気をよりお客様に楽しんでいただこうと、劉先生のプロデュースで中胡2名、高胡4名の生徒が伴奏に加わり、劉先生のブルーを基調にしたモンゴルの民族の衣装は、今回劉先生の為に準備されたものでした。当日初めて袖を通されたそうですが驚くほどサイズもぴったりで、そのお姿は舞台に映え本当にお似合いでした。果てしなく続くモンゴルの大草原の美しさ、大草原で暮らす遊牧民たちの情熱や大自然に対する溢れる愛を思う存分素晴らしいパフォーマンスと演奏で表現してくださいました。お客様の感動が伝わってくるようなひと際大きな拍手が会場いっぱいに鳴り響き第一部が終了しました。

 第二部は、武楽群先生の二胡独奏「黄土恋歌」で幕を開けました。
この曲は、2020年に創作され思慕・純愛・追憶の三楽章により黄土高原で暮らす若い恋人の愛情を描いた中国で大人気の二胡曲です。武先生が今年一月に室内楽と日本で初演奏。今回は揚琴との共演も日本で初演奏でした。
大切な人を想う切なさや優しさ、情熱が伝わってくる素晴らしい演奏でした。

 続いて、日本人二胡奏者の草分けとしてご活躍の鳴尾牧子先生のオリジナル曲「夜行の杯」が演奏されました。
王翰の「涼州詞」より題をとった曲で、夜月の光を受けて光る夜行の杯は戦いに出ようとする兵士たちの美酒。
この漢詩は、戦いを前にして最後の宴を催す兵士たちの様子が描かれています。平和への祈りが込められた演奏はロシアのウクライナ侵攻と重なり胸を打たれました。

 続いて、張濱先生のオリジナル曲「風月同天」は、約1300年前日本の長屋王が唐の高僧鑑真に宛てた漢詩の一節で、コロナ禍の日中両国が互いに贈りあった支援物資にも添えられたそうです。同じ天の下、心を通わせ縁を結ぶ。共に手を携え、この危機を乗り越えたい。風月同天の心が、新しい時代もずっ続きますようにと願いが込められた素晴らしい演奏でした。

 続いて、張鶴先生が劉天華の名曲「空山鳥語」を演奏してくださいました。静寂漂う山中での呼びかけにこだまが返ってくる雰囲気のイントロから始まり、鳥が会話をしているような鳴き声、賑やかにさえずり合う様子を巧みなテクニックで表現してくださり会場のお客様を楽しませてくださいました。

 続いて、艶やかな衣装で霍暁君先生が二胡の名曲「葡萄熟了」を演奏してくださいました。
情熱と陽気なウィグル族の喜びの気持ちを踊るようなリズム感覚で表現され、転調により滑らかなメロディーに変わり、最後は明るく速いテンポで躍動感に溢れた素晴らしい演奏を聴かせていただきました。

 先生方の独奏最後は、張連生先生の「万馬奔騰」でした。行進曲とモンゴル民謡のメロディーを上手くアレンジしたこの曲は、疾走する馬の群れをパノラマのように捉え、壮大な景色を描いた作品です。二胡の演奏テクニックと張先生の熱演に会場のお客様から拍手が沸き起こり迫力ある素晴らしい演奏を披露してくださいました。
 これほどたくさんの一流の二胡演奏家の先生方が出演されるコンサートはなかなかないと思います。
演奏テクニック、豊かな表現力に圧倒される本当に素晴らしい演奏ばかりで感激しました。

 コンサートも終盤を迎え、主催者であるNPO法人国際音楽協会理事長の張文乃先生と劉福君九州二胡教室主宰、今回の総合プロデューサー劉福君先生からご来場のお客様に感謝の気持ちを込めてご挨拶がありました。
劉先生が優しく張先生をエスコートされたお姿は、とても微笑ましく会場が優しさと幸せに包まれたようでした。
今回のコンサートは、昨年10月張文乃先生が劉福君先生にお電話をされた際に劉先生が触れられた日中国交正常化50周年の話題にお二人が意気投合され直ぐに企画、6ヶ月間と短い準備期間で実現となったそうでが、本当に張先生と劉先生の熱意と行動力とご尽力には圧倒されました。そして、たくさんの関係者の皆様のご理解、ご支援ご尽力があってこのような素晴らしいコンサートが開催されましたこに心より感謝申し上げます。

 コンサート最後の曲は二重奏で、劉先生の作品「島の風」が演奏されました。
島の風の演奏のために福岡から沖縄三線奏者のたそがれ海童さんが駆けつけてくださり、二胡独奏でご出演の先生方10名に清水久恵さん、林宏美さんが加わり、琵琶の葉衛陽さん、さくらさん、揚琴の沈兵さん、古筝の戴茜さん、ピアノ月岡翔生子さん、ベース丹羽肇さん、打楽器村岡慈子さんで、沖縄の音階を基調にした抒情溢れるメロディーが奏でられました。温かく故郷の愛を吹いて広げ、美しい未来への憧れを吹き続ける島の風を表現したこの曲は演奏会最後に相応しく、未来も日中の平和と友好交流が続き世界が平和であることを願って、中国交正常化50周年記念「平和の祭典」日中二胡名曲コンサートに捧げられました。
会場はお客様の大きな拍手に包まれ、続いて「蘇南小曲」がアンコール曲として演奏されました。50周年を祝う喜びと音楽の楽しさが伝わってくる素晴らしい先生方の演奏を最後に今回のコンサートの幕が下りました。

 今回のコンサートを通じて音楽は平和の象徴であること、音楽に国境はなく音楽は人の心を癒し、優しさや勇気、希望を与えてくれる素晴らしい文化、芸術であることを再認識しました。まだまだコロナ禍にあって不安な生活が続く中、ロシアのウクライナ侵攻で目を覆いたくなるような現実に心痛め、世界情勢も不安定となっている今、平和の大切さをたくさんの方と心から共感できたことは本当に感動的で忘れられない体験となりました。

 最後になりましたが、今回のコンサートの開催にあたりご協力、ご支援ご尽力いただきました各後援団体様、ご来賓の皆様、会場スタッフの皆様、素晴らしい演奏を聴かせていただいた出演者の皆様、司会の村上幸子様、当日のコンサート運営スタッフとして支えてくださった全国の二胡愛好者の皆様、張文乃先生のお声かけで受付や舞台裏方でご協力いただきました皆様、劉福君九州二胡教室の役員の皆様に心より感謝申し上げます。
そして、何よりこの企画を実現するために多方面にわたりご尽力いただだきました張文乃先生と劉福君先生に心より深く感謝申し上げます。たくさんの感動をありがとうございました。

レポート:須藤 小由美