劉福君来日30周年記念イベント レポート

4月1日 「第9回劉福君九州二胡教室 二胡の夢コンサート」
4月2日 「二胡特別セミナー」
4月2日 「~春よ来い~」二胡LIVE ウェイウェイ・ウー&劉福君

 令和5年4月1日、劉福君来日30周年記念「第9回劉福君九州二胡教室 二胡の夢コンサート」が熊本城ホール メインホールで開催されました。1993年に来日以来ノンストップで二胡の普及と日中友好の懸け橋として活動を続けてこられた劉福君先生の30年間の思いが詰まったプログラムが披露されました。コロナ禍で延期となっていた定期演奏会ですが、今回のコンサートに合わせるかのように、この春からコロナ対策が緩和され、4年ぶりに九州全県と島根県の生徒107名が熊本に集結しました。
長く続いたコロナ禍で会うことのできなかった仲間達との再会。久しぶりにマスクを外して再び舞台で演奏できる喜びと幸せを感じるコンサートでもありました。

 青空の下、今日の日を祝ってくれるかのように熊本城の桜も満開となり、会場のメインホールのホワイエからは、新緑の美しい風景と熊本の象徴である熊本城が融合した素晴らしい景色が一望できました。
開場前から長蛇の列ができ、本当にたくさんのお客様にご来場いただきました。

 第一部のオープニングは、劉先生の来日30周年をお祝いしようと、前日に熊本入りされた3名のゲストの先生方にもご出演いただきました。
 北京からは、日本でも著名な二胡演奏家、指導者でもある高揚先生。東京からは、NPO法人日本二胡振興会会長の武楽群先生とTBS人気ドラマ「JIN~仁~」で二胡を担当されるなど全国でご活躍のウェイウェイ・ウーさんが、生徒たちと一緒に舞台中央に座ってくださいました。そして、舞台花道、舞台下の客席前にも生徒が並び、劉先生独特の指揮をとりながらの立奏スタイルで、中国の春の名曲「田園春色」と日本の名曲松任谷由実の「春よ来い」が演奏され華やかに開演しました。
 春を迎えた喜びが伝わってくる「田園春色」は二胡の優しい柔らかなハーモニーで演奏され、「春よ来い」は「様々な困難を乗り越え、明るい未来(春)を信じて生きていこう」というメッセージが胸に響いてくるような演奏でした。
 続いて、北海道の広大な自然と大地をイメージした「北の国から」は、どこか懐かしい温もりが感じられる心地よいハーモニーに心が癒されました。
 合奏最後は、教室の定期演奏会ではお馴染みの曲「競馬」が演奏されました。今回は2パートが入り、二重奏の新バージョンで演奏されました。4年ぶりに開催された定期演奏会で、久しぶりに100頭以上の馬のいななき声が熊本城ホールの広い空間の中で響き渡り感激しました。

 大合奏の後は、主催者劉福君先生のご挨拶がありました。来日以来30年間支えてくださった皆様への感謝の気持ちと、熊本城ホールという素晴らしい会場で記念コンサートを開催できたことの喜びを述べられました。また、ゲストの先生方から劉先生にお祝いのメッセージが贈られました。
高揚先生からは、「日本の地で二胡の普及に尽力し、劉先生の素晴らしい作品が沢山生まれたことを心から祝福します。」ウェイウェイ・ウーさんからは、「劉先生のバイタリティー溢れる活躍ぶりに感動します。
今日は、お祝いの気持ちを込めて演奏します。」と笑顔で祝福されました。そして、いつも教室の演奏会にご協力いただいている武楽群先生からは、劉先生の人生を祝して、来日30周年記念CD「異国情調」のタイトルを入れた「異国情調 音楽人生」と書かれた達筆な書がプレゼントされました。
劉先生と先生方の深い信頼関係と絆を感じさせられるシーンでした。

 温かい雰囲気に包まれたステージで次に演奏されたのは劉先生のオリジナル曲2曲でした。
 1曲目は、武楽群先生の独奏で「流水如情」。この曲は、2016年熊本地震の被害で熊本の名所である熊本水前寺成趣園の池の水が干上がり、市民の皆さんのボランティアの力もあり奇跡的に池の水が復活したことを記念して劉先生が作曲された作品です。2017年の復活祭では水前寺成趣園の池の前で初演奏されました。これまでの人生を回想するかのような一音一音に思いが伝わってくる武先生の演奏に感動しました。
 2曲目は、高揚先生の独奏で「江南小景」。美しい江南の水郷。劉先生が故郷吉林省からまだ見ぬ南の地に憧れ、思いを馳せていた頃を想い書かれた作品です。高先生の微笑みながら演奏されるお姿がとても印象的で、美しい音色で軽やかに奏でられるメロディーから、劉先生の若かりし頃の未来への希望や期待感が伝わってくるような素晴らしい演奏でした。このように、ゲストの先生方は、来日30周年のお祝いに劉先生のオリジナル曲を心を込めて演奏してくださいました。

 続いて、生徒による斉奏3曲が披露されました。
 1曲目は、台湾の伝統的な舞踊曲「阿美族舞曲」。女性が優雅に踊る様子から男性がテンポよく力強く踊り、最後はドラマチックに民族の誇りを三部構成で描いた難しい曲を、男性2名女性3名の少人数で見事に演奏されました。「最後は皆さんの笑顔で終えられたことが嬉しかったです。貴重な経験をさせていただきました。」と生徒さんから感動の声を聞くことができました。
 2曲目は、二胡の名曲「月夜」を劉先生と各県の13名が心一つになって演奏。
澄んだ美しい月夜の光景が浮かんでくるような優しく柔らかな二胡の音色と、弓使いも揃った皆さんの演奏はとても素敵でした。
 中国の名曲の後に演奏された第一部最後は、赤と黒のコントラストで揃えた艶やかな衣装で11名の生徒が舞台一列に並びました。立奏スタイルでタンゴのリズムに合わせて揺れるスカート。
フォーメーションを描きながらセンチメンタルなメロディーが奏でられ、会場に新しい風が吹いたような「リベルタンゴ」が披露されました。心と体で表現する楽しさが伝わってくる素敵な演奏とパフォーマンスでした。会場から温かい拍手をいただきながら第一部が終了しました。

 第二部は、昨年開催された「敦煌杯2022全日本二胡コンクール」の受賞生徒の独奏で始まりました。
劉福君作曲「春風楊柳」、曹元德編曲「牧羊女」、鐘義良作曲「春詩」、陳耀星・楊春林作曲「陝北抒懐」の4曲が披露され、熟練を重ねてきた成果とそれぞれの思いが込められた素晴らしい演奏が発表されました。
このコンクールに参加した生徒全員が優秀な成績をおさめたことが評価され、劉先生も同時に「敦煌杯2022優秀教師賞」を受賞されました。

 続いて、ウェイウェイ・ウーさんが劉先生のオリジナル曲「雨中泪」を披露してくださいました。
この曲の演奏のために準備された衣装は、天女の様な神秘的で美しい衣装でした。ビブラートで奏でられる二胡の音色から、心の底から湧いてくる恋を失くした時の悲しさ、寂しさ、涙の後の笑顔を信じようとする感情が伝わってきました。会場全体が引き込まれるような素晴らしい演奏でした。

 そして、いよいよ劉先生がシルバーグレーのロング衣装で舞台へと登場され「草原情」が披露されました。
「草原情」は、中国民族管弦楽学会胡琴専業委員会が主催する「2015年金胡琴作曲作品コンクール」で優秀作品賞を獲得し、2019年中国人民音楽出版社の「金胡琴賞受賞作品集」に出版された名曲で、劉先生の代表作です。今回は、低音の響きが美しい中胡で立奏されました。
舞台がモンゴルの大地のように見え、大地に根づくような力強さと温かく優しく語り掛けるような表情と演奏。厳しい大自然で暮らす遊牧民たちの生きる強さと温かさを見事に表現されました。
30年の思いが詰まった渾身の演奏とパフォーマンスは感動的な舞台でした。

 コンサート終盤は、劉先生とゲストの先生方3名による演奏が披露されました。
 1曲目は、劉先生の新曲「湖畔の朝」を中胡と二胡の重奏で演奏されました。豊かな自然に囲まれた美しい湖のほとり。清々しい風に吹かれランニングや散歩を楽しむ人たちの生き生きとした風景に元気づけられ、自然に湧いてくる前向きな感情を表現した作品です。4人の先生方が生き生きと楽しそうに演奏されていたのがとても印象的で、自然と心が明るく晴れやかになり、本当に元気になれるメロディーと演奏でした。
 演奏会も最後の曲となり、4人の先生方で中国の名曲「万馬奔騰」が演奏されました。疾走する馬の群れをパノラマのように捉え、壮大な景色を描いた作品です。先生方の意気の合った迫力ある演奏と、二胡の弦を巧みに操る演奏テクニックに目がくぎ付けになりました。悠久の癒しの音色と言われる二胡のイメージから想像もできないほどの力強さ、馬の群れが勇壮に走る姿が浮かんでくるような圧倒的な表現力とテクニックに会場から拍手が湧き起こりました。

 会場は最高潮の中、再び4人の先生方がアンコールの演奏へと舞台に登場されましたが、その前に待っていたのは、30周年記念と数日後のお誕生日に還暦を迎えられる劉先生へのサプライズでした。
生徒たちが劉先生に気づかれないように実行委員さんを中心に企画。生徒を代表して、教室最年長の福岡大濠教室の江崎民子さん92才と、同じ大濠教室でいつも江崎さんを気遣ってくださる入江秀子からお祝いの記念品が手渡されると、劉先生は満面の笑顔を見せてくださいました。
続いてハッピバースデーの曲に合わせて登場したのは、ご長女の美佳子さん。60本のバラの花束を鹿児島川内教室の野尻尚子さんと共に劉先生にプレゼントされました。岩崎先生のピアノ伴奏と実行委員さんの手拍子に合わせてお祝いの歌が会場いっぱいに流れました。劉先生は驚いたご様子で、目には光るものがありました。皆さんのお陰でサプライズは大成功でした。

 このような感動の中、アンコール曲として演奏されたのは演奏会2か月前に劉先生が作曲された「再会」でした。目に見えないコロナの恐怖と不安。自由が大きく制限された3年間でしたが、ようやくコロナ終息へと明るい兆しが見えてきた中で演奏するにぴったりの曲を初披露してくださいました。先生方は、再会を心待ちにしていた喜びと、期待で胸が高鳴る心情を意気の合った迫力ある演奏で表現されました。
 劉先生が30年の集大成と感謝の気持ちを伝えるコンサートにしたいとおっしゃっていたように、30年の思いと、本当の意味での春の訪れ(再会)の喜びを会場の皆さんと分かち合う一つのドラマのように描かれた今回の記念コンサートは、たくさんの感動を残して無事終演を迎えました。

 会場には、劉先生と交流のある方々、劉先生から二胡の指導を受けたことのある方々、初めて二胡の生演奏を聴きに来られた方々など、全国から本当にたくさんのお客様にご来場いただきました。皆様に心より深く感謝申し上げます。
 今回のコンサートを開催するにあたり、当日ぎりぎりまでご準備いただきました熊本城ホールのスタッフの皆様、コンサートの伴奏で私たちを支え盛り上げてくださった先生方に心より感謝申し上げます。
 ピアニストの岩崎大輔さんは、今回の演奏曲の編曲なども担当され、劉先生のサプライズ演奏にも快くご対応いただきました。宮本道隆さんには、サックスとフルートの素敵な演奏を聴かせていただきました。
パーカッションの宮本香緒理さんには、多彩な楽器を操る姿に魅了させられました。ベースの松下一弘さんは、音楽を本当に楽しんでいらっしゃる表情が印象的でした。そして張林先生は、揚琴の凛とした艶やかな音色を会場に響かせてくださいました。会場の皆様もきっと先生方の素晴らしい演奏と二胡のコラボレーションを楽しんでくださったと思います。また、教室の演奏会でいつも明るい笑顔で司会進行してくださる村上幸子さんには、当日のサプライズにも快くご協力いただき心より感謝申し上げます。
 最後になりましたが、私たちをいつも熱心にご指導いただき、夢のような素晴らしいコンサート会場で演奏の機会を与えてくださる劉福君先生に心より感謝申し上げます。生徒全員が協力し合い定期演奏会が無事に終わり、私たちは気持ちを新たに次の目標に向かってスタートいたします。

 このように「二胡の夢コンサート」を終え、興奮と余韻がまだ残る翌日の4月2日も劉福君来日30周年を記念した二つのイベントが開催されました。
 午前中は、国際交流会館で「二胡特別セミナー」が開催されました。
今回、王永徳先生が来日される予定でしたが、コロナの影響で渡航が困難な状況が続いていたため、王先生の体調を考慮して予定が変更となりました。代わって高揚先生が「基本の重要性と正確な練習法」を講義してくださいました。会場には、初心者から長年二胡の勉強を続けている方まで、様々な二胡歴の愛好家が集まりました。高揚先生の講義は武楽群先生が通訳してくださり、皆さんメモを取りながら熱心に受講されました。2時間のセミナーでしたが、最後まで次から次に質問したいと手が上がり、それに対して実技を交えながら、優しく熱心に解りやすく先生方が説明してくださいました。受講された皆さんの少しでも上達したいという思いが伝わってくるセミナーでした。

 そして午後からは、ウェイウェイ・ウー&劉福君「~春よ来い~」二胡LIVEが、熊本市内のライブ会場ぺいあのプラスで開催されました。お二人が熊本で共演されるのは初めてとのことで、会場は満員となり受付もストップされ、ライブの始まりを待つお客様の熱気が溢れていました。
伴奏には志娥慶香さん(キーボード)、張林さん(揚琴)、井上浩二さん(パーカッション)といった豪華な顔ぶれで、オープニングは「JIN~仁~」「春よ来い」「シルクロードのテーマ」といったお馴染みの曲で夢の共演がスタートしました。素敵な二胡の音色で奏でられるハーモニーの美しさに、うっとりと聴き入り素晴らしい二胡音楽の世界に招かれたような幸せな気持ちになりました。
 共演後は、それぞれに楽しいトークを交えながらオリジナル曲や日本と中国の名曲をソロ演奏で聴かせてくださいました。
 ライブ終盤は、前日の「二胡の夢コンサート」でも演奏された劉先生のオリジナル曲「再会」が演奏されました。意気の合った演奏、音楽へのエネルギーが湧いてくるような情熱的な素晴らしい演奏に会場は最高潮に盛り上がりました。そしてアンコール曲にテンポの速い「競馬」が演奏されると、お客様の熱い手拍子で会場が一体となりました。演奏直後には、飛び上がるように立って拍手するお客様の興奮と感動がありました。劉先生とウェイウェイ・ウーさんと会場のお客様と共に素晴らしい時間を共有できたライブでした。

 こうして二日間にわたって開催された劉福君来日30周年記念イベントは、たくさんの方に二胡の魅力と音楽の素晴らしさを伝え、演奏者の生き生きとした姿は、私たちに勇気と感動を残してくれました。
そして、劉先生の30周年の集大成と二胡への情熱が皆さんの心に響いた素晴らしい二日間でした。
この二日間を共に過ごした皆様に心から感謝申し上げます。

レポート:須藤小由美